越前の土地に根付く、
二つの伝統工芸に出会う場所
福井県越前市。
市街地のはずれにある工業団地に
火の粉をかぶりながら鍛錬し、
一心不乱に刃を研ぐ職人たちがいます。
その個性豊かな打刃物に
包丁の「柄」と「蒔絵」を介して
触れられる場所が「柄と繪」。
産地を巡り、工芸の新たな魅力に触れられる場所です。
伝統工芸技術の新しい可能性を拓き、
刃物文化の未来に貢献します。
約700年、ひとりひとりの職人によって受け継がれてきた越前打刃物。
柄は、刃物に挿げることで初めて用を成す重要な役割を担います。
山謙木工所は1912年の創業以来、轆轤による椀木地製作に始まり、
「刃物の柄」の生産所として、この産地を支えてきました。
独自の特許技術の開発など、用途も個性も異なる刃物に
提供し続けてきた高品質な「山謙の柄」は
現在、国内外のメーカーやユーザーに求められています。
山謙木工所は、この価値ある伝統工芸技術の前途を開拓し、
刃物文化の未来に貢献しています。
蒔絵・漆工芸と「柄」の融合で
産地の新たな扉を拓きます。
越前の蒔絵は、鯖江市河和田地区を中心に受け継がれてきた
「越前漆器」を彩る伝統技術です。
ふだん使いできる生活工芸品としての要素が大きく、
食堂や旅館をはじめ、一般家庭などで
多くの人々に親しまれてきました。
一方、同じ北陸地方の金沢の蒔絵は芸術的な作品が多く、
高級な鑑賞品として知られています。
「柄と繪」では、その二つの伝統の流れを汲む
蒔絵師の作品を通じて新しい工芸の可能性を提案します。
物心ついた時から、家業である山謙木工所を四代目として継ぐことを聞かされて育ち、東京農業大学では「林学」を専攻。就職活動を始めた折、山謙の商品開発の中心を担っていた叔父が急逝し、危機に陥った会社を助けるために帰郷。全くの素人で親方もいないなか、叔父の残したサンプルや資料だけを頼りに商品の製造に携わることに。パズルのピースをはめるように地道に試行錯誤しながら、今では20年のキャリアを持つ包丁の柄のスペシャリストとして、越前の地で打刃物業界を支えている。
高校生の頃、出身の静岡にある美術館で工芸の美しさに出会い、漆の色彩に魅せられ、東京藝術大学にて漆芸を専攻。在学中のインターンで訪れた鯖江市河和田地区で、初めて産地と職人に触れるなか、鑑賞用ではない実用のための「生活工芸」に共感を得る。大学卒業後は河和田を拠点に、加賀蒔絵師の田村一舟氏、辻漆器店店主の辻利和氏に師事。結婚を機に山謙木工所に入社。蒔絵師の技術を活かし、「柄」の新しい側面を生み出していく。